たろぁーるの日記

たろぁーる氏が書いているぶろぐ。主にアニメとかマンガとかテレビの感想と一人言。ネタバレ結構あります。

天気の子

新海監督の新作の映画「天気の子」を見た。ネタバレ前提で書きますが,まだ上映中ってこともあるので。


約2時間の作品,長いので特にストーリは書かない。ただ見て最初に思ったのは,あぁすごいセカイ系の話だなぁ,ということ。新海監督はセカイ系の話を書くという風に私は認識してるんだけど,これだけ有名になり,一般の人が見にくる映画でここまでセカイ系の話を描けるのはすごいな,と思った。私は今回は小学生の子供にせがまれて家族で見に行ったのだけど,彼はどう解釈しただろう?

実は「君の名は。」を見に行った時は,ストーリをなるべく調べないで行ったので,隕石の話になった時に結構びっくりした。そういう意味では「君の名は。」は途中で全然違う話になったという印象がある。それに対し今回の天気の子は最初から最後まで一貫して話が進んでおり,展開で衝撃を受けるようなことは(私は)なかった。

だったのだけど,映画を見た後にいくつか他人の感想を読んだり聞いたりしていて,主人公の帆高の行動が批判されていることを知った。私は自然だと思ったので,ちょっと驚いた。警察に追われて銃を撃ったりするあたりの話は,確かにやりすぎの感があるが,そもそも警察が疑いの段階の高校生をあそこまで執拗に追うことがあるだろうか?というのと,最後銃を手放した帆高に老刑事が銃を向けるのは,現実としてありえないと思ったので,完全にフィクション,エンターテイメントとしての表現だと思った。だからそこの帆高の行動には批難的な考えは浮かばなかった。

今回の話の最後のオチは,要は帆高は東京のために人柱になった陽菜を,人柱から救い出し,そのせいで東京は水没した,ということなんだろう。帆高を批難してる点としてその行動をあげてる人もいた。でも私はそれで良いじゃないかと思った。だからこの帆高の選択は,同意するし,まぁああいう選択が映画で描かれることは少ないけど,衝撃とも思わなかった。むしろ「正しい」と思ったくらいだ。

この選択問題は,トロッコ問題のようでもあるなよなと思う。いわゆる人柱の問題でもある。責任論とか多数の利益の問題でもあるのだろう。でも私は,普段から,人の命の重さは同等ではなく,自分に近い人の方が大切であるという考えを持っている。だから帆高が東京全体の運命より,大切な陽菜を選んだのは自然だと思っている。トロッコだって人の数より,大切な人が乗ってる方を助けるよ,普通,と私は思うのである。逆に書くと,自分の大切な人を守れない人を,自分の大切な人の命一つよりも,世界の救済が大事だという人を私は信用できない。これは私が子供を持ってから,さらに強くそう思うのようになった。

そもそも,今回陽菜が天に昇れば助かるというのは仮説でしかない,確証はない。それに東京に雨が降っているのは陽菜が原因でもない。その状態で人は,誰かを人柱に差し出すものだろうか?。それこそ生贄の思想で,太陽に心臓を捧げるのと変わらないよ。もし彼女が原因でそういうことになっていれば,少し考えは変わるのだけど,今回の場合は,あえてだろうけど,そういう描写はなかった。

今,ネットで意見を言われることが多くなり,匿名性が高まっているため,個々の人間関係に即した意見は見えにくくなり,大衆の集団としての意見が強くなっている。そこでは多数決や社会全体の利益というのが優先されがちになる。行き過ぎた大衆の利益は社会のために誰かに犠牲を強いることを躊躇しなくなる。今回,新海監督はそういう風潮にアンチテーゼを示したかったのかな?という気はした。

2011年の震災以降,日本各地で地震や雨による災害が続いていることもあり,社会全体の苦しみに人々は共感するようになってきてるが,個々の人の幸せ(というより悲劇の回避すら)が見えにくくなっているように思う。

同様の設定だと昔だったら陽菜にあたる人が自ら生贄を志願し,好きな人の前からさる,という自己犠牲を描くことも多かった。でもあえてそれをして,それを美しい話としなかったのは,よかったのではないだろうか?

実は数年前にあった「ひそねとまそたん」も,ヒロインのひそねは生贄の儀をぶち壊しにする。でもあの時は結局世界に災害は起きなかったんだよね。結果オーライだったのだけど,今回は世界が変わったしまった,ということでもう一つ踏み込んだ内容になっている。帆高に賛同するかは何かの踏み絵なんだろうか?。

そういう意味では須賀圭介が一人の命で東京が救えるなら良いと良い,夏美に批難されたが,確かにそんなだから娘と暮らせないのだよ,とか思った。余計なお世話だが。

ストーリに関してというか,見た後に強く持った意見としてはこんなところ。あとはいつも通り絵が綺麗だし空が綺麗。現在の東京の風景が見事に切り取られるような,リアルな背景がすごいと思った。でもこの背景,数年するともう現実じゃなくなるんだよなぁ,東京は変化が早いから,そいうう意味で一瞬のような出来事のようにも思えた。設定では2021年らしいが,あえてオリンピック後にしたのだろう。でも21年にもうないものとかあるかもよ,と思う。

新海監督は,ずっとこういう映画を作っていくのだろうか?。良い映画で,かけたお金がちゃんと質にもつながってると思うけど,大衆向けのエンターテイメントとしては,ちょっと重いテーマだよなぁ。まぁでも売れてるからこそこういう映画で挑戦してほしいとも思う。