二週間ほど前にTVでやっていたのを観ました。本映画は公開当時話題になってましたので,今回私は初見でしたが,話のプロットは知ってました。もっともどんでん返しがある話でもないので,プロットを知っていて損をしたというものでもないと思います。
さて本作は若い母親「花」が,母親の手一つで二人の子供を育てるお話です。子供の父親が狼の末裔で,二人目の子どもが産まれると同時に亡くなってしまうとか,子供が狼の特性を引き継いでいるので,行政やボランティアに育児のことを相談できず,困り果てて田舎の山奥で隠れるように子育てをするようになるとか,そういう話に対しての突込みを公開当時みたような気がしますが,この映画基本的には,「母親の手一つで子供を育てる」という舞台設定の正当性を作るためにこういう設定にしてるだけで,そこに大きな意味は無いように感じました。母親がシングルマザーで,だれにも相談できず隠れるように子育てをするということ,あと子供が小学校卒業のタイミングで巣立っていくというプロットの説明がつくのであれば別に狼である必要はないのでしょう。ある意味,母親が犯罪者で逃亡者でもこの話は作れるのですが,それだと母親のせいになってしまう。この話では母親が何の責も負わないのにでもこれだけの辛い境遇に陥ってしまう(ある意味理不尽なもの)…という風にしたかったのでしょう。
さて,そういうわけでこの作品では,とにかく子育てに苦労しながらも,しかしいつも笑顔で子供たちに愛情を注ぐ母親が描かれてます。途中まで誰にも助けてもらえず,また最後まで誰にも相談できず子育てをさせられます。また子供ができたせいで,花は学生生活のすべてを捨て,都会での生活を捨て,山奥に篭もります。実に献身的です。
この作品を作った細田監督は子供ができる前にこの作品を描き,子供が出来る前だからこそ理想の母親としての花を描けた…と語ったとかいう話をどこかで読みましたが,まさに,ちょっとありえないくらいの母親像でした。
どんなに辛い目にあっても,ゆるぎない確信を持ち献身的に子供に尽くす花の姿を見ていて,これはヨブ記の様だな…と思ったのですが,ネットを調べると既に指摘されてる方がいました。そう,見返りを求めず疑問を持たず,自己犠牲を突き通す姿はヨブ記の様であります*1。
でも一方で現代の日本人がヨブ記を読んだら,その神への信仰ぶりにリアリティを感じないのと一緒で,花に対してもそのように感じるのではないでしょうか?。つまるところ,この話は信仰の話であり,神話であるように私は感じたということです。母親の子育てを神話として描いていしまうあたりは,女性はこの映画どうとらえるのかな?とも思いますし,自分も子供を二人抱えている親ですから,なおさらおとぎ話として捕らえないと,消化できないような気もします。
さて,後は細かい話…。二人の子供がほぼ同時に家を出ていったあと花はどうなったんだろう…と少し気になりました。本当に子供を育てるだけの12年間だったんだろうから。まぁリアリティのない人だからなぁ。そういうこと気にしてもしょうがないのかもしれませんが。
あと作画。背景を存分に動かし自然を表現する作画は圧巻でした。でも,この映画の直後CMでかぐや姫の物語をやっていて,こちらも作画的には圧巻。なんかアニメ映画って成功して資金的に余裕が出てくるとこういう方向に走るのか…と感じてしまいました。見たことない作画を見せてくれるって意味では贅沢なことなんですけどね。
総じて作画もストーリも非常にクオリティの高い作品でヒットしたのもうなずけるし,私も満足しました。でも娯楽なのかな?,ドラマなのかな?…とか考えるとやっぱり神話なのかな,という気がしました。現代劇で神話を描いてしまうあたりに,細田監督の力を感じました。