イドと呼ばれる犯罪者の心理を再現した世界に名探偵を潜入することにより,犯人のプロファイリングをし犯人の特定を行う組織「クラ」。そしてイドを形成するミズハノメという機械。名探偵は殺人者にしかなれず,犯人のイドに入った瞬間,名探偵は記憶を失っていて自分の名前すら思い出せない,しかし,イドに必ず死体として現れる「カエル」と呼ばれる少女をみることにより名探偵は自分の名前と使命を思い出す。そういう世界観の話。
とにかく世界観が独自。犯人の心象世界にシンクロする様な話はこれまであった様にも思うが,犯人の心理そのものではなく,あくまでも残留思念なので,ある時点のもの。また犯人をそこで捕まえるのではなく,イドの世界でカエルの死因を探ることでなぜか犯人が特定できる,名探偵は犯人を捕まえるわけではなく,名探偵の見聞きするものを外部にモニターするメンバーがいて,彼らが推理し,犯人を捕まえるとう設定はこれまでみたことがない。また世界観が心象世界なので,かなりとっぴょうしものないものでユニーク。そこに入ったものが「名探偵」と名乗るのも芝居がかかっている。第一話で酒井戸が「なんだこれはー」と叫んだ時に,視聴者も同じ気分だったのではないだろうか(笑)。とはいえ2話以降もしつこく繰り返される名探偵投入からカエル発見までの芝居がかったせいリフは,数回続くうちに様式美となり,この独特の世界に我々を没入される効果があり,上手い演出だと思った。普通こういうお約束のバンクみたいなものは,だんだん省略されるのであるが,この作品では,あまりそれを行わず,最後のセリフが「おれは酒井戸,名探偵だ」で終わるのは,最後に見てる方に快感を感じさせる。
世界観も独特ながら,ストーリの巧みさも素晴らしい。最終回を見た後に,最初から全話見直したが,イドに入っている時に死んだらどうなる?という話は冒頭に語られており,裏井戸の最後を匂わせていた。途中にもいくつか伏線につながるものが置かれており,富久田の数唱障害,早瀬浦の誘いに乗っておらず,早瀬浦が危険視する要因になっているあたりも,途中で見え隠れしていた。
世界観を視聴者に刷り込むための,冒頭,鳴瓢の過去やその想いを深く描いた中盤,そしてミズハノメの秘密と早瀬浦の封印を描いた終盤と構成も見事。最初の方は鳴瓢は悪人なのか?の用に描いておいて,実は家族思いのかなりいい人であることが,途中明らかになる。そして,中盤までは,あまり重要でなかったと思われていた百貴が結局,事態を収束させるあたりの使い方も面白いと思った。それにしても百貴はなぜあそこまで飛鳥井木記に執着していたのだろう?とは思ったんだけど,たんに可愛かったから?(笑)。
いくつかわからないことも残っている。イドの中のイドは結局なんだったんだろう?。案外これは,木記のイドなんではないか?という気がする。木記は全ての犯人と繋がっているわけで,全ての犯人のイドが木記のイドに繋がっていても不思議でもない。そもそも,木記はこの話の全ての始まりの様な存在なのだろうが,ほとんどのことが明らかにされなかったし,なにも解決されなかった。最終回の感想で私は「白い曲世愛の様だ」と書いたが,全ての元凶ながら,とても不幸で同情される存在として描かれている。いわゆる「サトラレ」の様な存在なのだけど,でもそれで,なぜミズハノメの様な機械が作られる原理,また早瀬浦がなぜ,他の名探偵と違い,自分の意思を持ってイドのなかで活動できていたのかがわからない。そもそも早瀬浦はコクピットを使わずにイドに潜っていたのだろうか?。まさかあのプールに一緒に入っていたんじゃないだろうな(怒)。まぁいろいろわからないことがある。この辺はもしかして続編が作られるのであれば,深掘りされるかもしれない。そうだとおもうと楽しみである。
不思議な世界観で,また感情に訴える様な,境遇を持つ登場人物が多い中で,コミカルなシーン,特に,井戸端の若鹿や小春のリアクションも面白かった。エンターテイメントとしてよくできていると思う。
独特の世界観や表現でありながら,久しぶりに考察のしがいがある作品だったんではないかと思う。今期の中では突出し,もしかしたらここしばらくの作品の中でもよくできてると思う。とても気に入った作品ができて嬉しい。