劇場アニメ ルックバックを見に行った。数ヶ月前に映画館のトレーラーで見て,漫画家を目指す若者の話かとは思っていた。あまり見ようとは思ってなかったが,映画館のスケジュールを見ていると,公開から三週間ほど経っても1日6回くらいやっていて,あれ?と思った。通常だと2回程度になるはず。話題になってるのか?と思っていたら,何箇所かで話題を聞いた。なんかネタバレを踏みそうだったのでその前にと見に行った。平日の夕方だったけど,10人以上観客はいて,それなりに評判になってるのだなと思った。
この映画60分程度しかない。鑑賞料は若干安めに設定されているが,会員割引がないので,会員の私はむしろ高くついた。ただポイントはついたけど,会員証見せなかった方がよかっただろうか?
60分だけど,かなり密度は高い。十分に満足した。この密度で90分とか2時間やられたら大変で,かえっていいかもしれないとも思った。ただストーリ的にはかなりシンプルである。トレーラーから分かるように,二人の少女が漫画を描く話である。しかし,あるところで意外な展開を迎える。そこは,公式ページでも載ってないので,まぁネタバレになるんだろう。その展開は納得いくかというと複雑な心境である。それでもこの映画は,見てよかったと思った。
内容は,結構マニア向けかなぁと思う。エンタメ作品という感じではない。なんでこんなに話題になるんだろう?。でも多くの人の心には何かを残すだろう。楽しかった,面白かった,という映画ではない。ただ作画や演出はすごい。そっちで引き込まれる人もいるだろう。
まぁストーリに触れずに感想を書くとこんな感じ。ここからはネタバレ含みます。
田舎で暮らす藤野と京本という二人の小学生の出会いから始まる。藤野はちょっと漫画を描くのが得意で,学級新聞に四コマ漫画の枠をもらって毎回描いていた。みんなに褒められると鼻にかけて,小学生で自分より漫画が上手い奴はいないとかいう奴だった。ある日不登校をしていた京本という少女が隣の枠に漫画を載せてきた。風景だけだが画力はすごく藤野はショックを受ける。そこから真面目に藤野は漫画の画力をあげようと,本を読んで,とにかく絵を描く。クラスで浮くくらい2年くらい絵を描き続けた。それでも京本の画力に叶わないと思った藤野は6年生の途中で漫画をやめる。そして卒業証書を渡してくれと先生に頼まれた藤野は家に行くが京本に会えず,ついその場で漫画を描き置いてきてしまう。それをみた京本は部屋から出て藤野に「先生」という。尊敬されていたことを知った藤野は気を良くして再び漫画を描き始め,そして京本と組んで,漫画を投稿しプロになっていく,というのが前半である。
正直藤野がかなり嫌な性格で,ドキドキしていた。ただ小学4年生だと,こういう子もいるし,こういう子だから漫画家になれるんだろうとも思った。自尊心が高くて,漫画を次々に描き,少し褒められると自分はすごいと満足する。でも他の人が褒められると気に入らない。
でも,私から見ても藤野は才能があったと思う。絵は大してうまくないが,コンスタントに4コマ漫画を描き続けてられるのはすごい。話を作れるというのは絵を描くことよりも実は重要な才能である。そういう意味では画力で京本に叶わないと思って,本当は藤野は劣等感を持つ必要はなかった。
引きこもりから,京本をアシスタントにして,漫画家デビューをした藤野はいつか京本を傷つけるんではないか?とドキドキしてみていた。京本は藤野にべったりで,藤野に裏切られると自殺をするんじゃないか?と,そう思いながら見ていた。でも,実際は逆だった。京本は自分で,背景画の画力をあげたいと,藤野と別れて美大に行くことを選んだ。藤野に散々やめとけと言われても譲らなかった。ある意味捨てられたのは藤野である。藤野は人気の連載漫画家になったが,いつもアシスタントが気に入らず,クビにする。京本だったらどうだったんだろう?と思う。多少筆が遅くても京本だったら使うんだろうか?アシスタントに文句を言う藤野は京本がいないことにイラついているようにも思えた。だから,京本の行ってる大学で事件が起きた時,真っ先に電話した。常に京本のことが頭にあったことがわかる。
藤野のペンネームは藤野キョウだった。キョウは京本のキョウだろう。話も人物も藤野が描いてるなら京本はアシスタントだろうが,共同のペンネームに見える。藤野は傲慢でいけ好かない性格のように描かれているが,京本に依存していたように見えた。
京本が死んだことを,自分がそもそも部屋から引っ張り出したことが原因だと落ち込む藤野,その時,ドアの向こうでは,京本が出てこなかった人生が描かれる。この演出は,なんかそぐわないと言うか,いわゆるマルチストーリだけど,今風だと思った。ただその世界線は藤野に見えたわけではない。ただ引きこもった京本が描いた漫画が,藤野に一通戻ってだけだった。そのために描かれた世界線だったのだろうか?
ただ背景画家だった京本がその漫画は,京本が藤野に命を救われると言う四コマ漫画だった。どちらかというと藤野が描く漫画ではないだろうか?もしかしたら無意識に藤野が描いたのかもしれないとも思った。
私は基本的には子供や若者が死ぬ話は嫌いである。なぜ京本を殺す必要があったんだろうか?と思った。でも,もし藤野と京本が別れず,ずっと一緒に漫画を描いていたらどうなったんだろう?とも思う。どこかで傷つけあって別れたんだろうか?。それとも京本はずっと藤野のアシスタントでいたのだろうか?。京本が大学にって卒業したらどうなったんだろうか?,画力を上げて藤野のところに戻るのか?はたまた,画家として成功するとか,友達を作って別の人生を歩むとか藤野と別の人生を歩むんだろうか?。まぁ何れにせよよかったねという終わり方でもない気がする。だからといって,それをすっ飛ばして話を終わらせるために,殺すことはないだろうとは思うけど。
藤野の家族や友人を見ると,みんなが藤野に漫画を卒業させようとしていていて,それもちょっと嫌な感じで見ていた。藤野は天才だと思ったけど,多分京本がいなければ,漫画家にならず,普通に大人になっていたかもしれない。ある意味漫画家藤野を誕生させるために,京本は踏み台になったのかもしれない。でも人はそう言うものかもしれないとも思った。藤野はおそらく自分が漫画家になれたのは京本のおかげであることを知っていたのだろう。無意識だけど感謝していたかもしれない。だからこそ,自分が京本と出会ったことが京本を殺したと思ったのだろう。ある意味この作品は,藤野の京本への気持ちを描いたのかもしれない。
それでも藤野は漫画を描く。人生のやり直しはきかず,死んだ人が生き返ることもない。だからエンディングは一つである。あれでよかったんだろうか?とは思った。まぁもし実話だったら,仕方ないなぁとは思うんだけど。
とグダグダ書いたけど,それくらい心には残る作品でした。