たろぁーるの日記

たろぁーる氏が書いているぶろぐ。主にアニメとかマンガとかテレビの感想と一人言。ネタバレ結構あります。

BEATLESS 全体の感想

全体の感想を書こうと書いていて遅くなりました。いまさら感がありますが,書いておきます。
この作品は今年の1月に始まったのだけど制作の遅れで6月末には残り4話が足りない状態で,枠が消滅,すぐにどこかでやるのか?と思いきや,枠が取れなかったのか9月末に二日にわたり2話ずつ計4話を放送して無事終結しました。私は6月の時点では原作は読んでなかったのですが,6月後に原作を読んで,原作読み返すのと並行して,録画していた1話から20話を視聴,そのまま原作を読み終わり最終4話は原作既読者として見終えました。
アニメの感想を書くところで原作の話を書くのは脇道なんですが,結構分厚い原作は,かっての早川文庫の洋物のSFの様な文体と世界感で,懐かしい気分にするとともに,やたら知的で難解な印象を持つようになってます。まぁでも整理してみるとそんなに難しい話でもない。ただアニメの20話までの放送を見てる時は,どこに向かっているのかがわかりにくいなという印象を持ちました。でも原作を読むと原作も難解でむしろアニメは原作をわかりやすくしてるな…という印象ももち,この作品はアニメと原作小説が相互に補完しわかりやすくなるという様な不思議な印象を持ちました。
この作品の世界感は昨今言われて続けてれているシンギュラリティが起きた世界,AIが人間を追い越し人間が理解できない様な高度なレッドボックスを作り社会を管理してる世界が舞台。そこで人間は人間としての特権意識を持ちつつ,一方ではAIであるロボット(hIE)に劣等感を持っている世界です。そんな中,主人公である高校生アラトにオチものの様に美女のロボットが現れ契約を結ぶ。このような話はこれまでもちょびっつを始めすでに伝統的なネタなのですが,人間がAIにコンプレックスを持っていて,実際に社会はAIに管理されている世界というのが新しいところでしょう。そういうシリアスなプロットながら,超高度AIのレイシアに対し主人公アラトはラブコメの主人公の様にだらしなくチョロい男として描かれてるところが,この作品の面白いところだと思います。私はこの作品のテーマを一つあげるとしたら「ちょろさは世界を救う」だと思ったのですが(笑),これがギャグではなく実にシリアスに描かれています。その辺はジュブナイルとしての様式でもあります。
ちょろい男のオチものラブコメの様な体裁をしていてもハードなSFらしく社会問題を暗喩して描いてました。先に書いたシンギュラリティ後の世界を描いていて,主人公格の3人(三兄妹)をAIを運用する財閥階級,AIに労働を奪われた個人商店,一般人の様でいて,親が技術者で問題を解決できる兄妹という明確な役割を持たせています。それでいて仲がいい友人同士として,友情と各立場の違いのはざまで悩むことを描いていました。一方でエリカの様に異なる時代(むしろ読者の時代)の視点を持ったキャラを投入し,hIEをあくまで道具として突っぱねながら裏からストーリを支える様なこともしてます。
本作で登場した一番重要な業績は「アナログハック」という言葉を明確に提示したことだと私は思ってます。現在でもAIを使い音声対話システムを作った場合,単に画面に移ったCGをインタフェースとして持つのと,ロボットの様な立体的に動くキャラクタにそれをやらせるのでは,まるで人間に対する訴求力が違います。これは経験した人はだれでも感じるのですが,このことを表す言葉が現在はありません。今後これを「アナログハック」という風に呼ぶことは可能なのではないか?と私は思いました。この言葉がうまく広がると「世界線」の様に今後の作品を表する場合も使われる言葉になると思うのですが,それは今後の世の中を見て判断するとします。
主人公であるアラトとレイシアは終盤社会の基盤を担っている超高度AIヒギンズをシャットダウンするために向かいます。一般の人々はヒギンズをシャットダウンできないと考えていて,それで人間はAIに制御されている様な息苦しさを感じてます。アラト達はヒギンズを安全にシャットダウンできることが,人間とhIEが共存して未来を迎えることだと言ってることが当初理解できなかったのですが,ネットでそれは市民社会であると言っているのを読んでなるほどと思いました。現実の社会でも我々は自分たちでは変えられない社会的なシステムに縛られて生きているという息苦しさを感じてます。でもそれは自分たちで変えることができるんだと証明されれば,人はよりそのシステムと共存できるということなのかもしれません。
本作のシリーズ構成は高橋龍也氏が務めてます。私は高橋氏の作品が好きで信用してるため本作もそういう期待をしてみたところがあります。なかなか難しい原作だっと思いますが,高橋氏担当の回は期待通り,彼特集の切なさを滲みませた本になっていたと思います。まぁ最終回でレイシアとアラトの再会がより強調されていたのは,最終回の感想で書いたとおり原作のイメージとは少しずれていたように思うのですが,HMX-12とのことを書いた高橋氏らしいエンディングだったという気もします。
全体的にハードSFの世界感とオチものとしてのお約束と萌えを豪華に盛り込んだ作品だったようで,少し難解なところもありましたが,お腹いっぱい楽しめました。